「私は肺癌なのです」。患者の名前は山中静夫。自宅がある静岡の病院からの紹介で、医師である今井のいる信州の病院にやって来たのだ。紹介されてきた資料によれば、山中は腰の骨と肝臓に転移のある肺癌で、明らかに末期の状態だった。付き添う家族の負担を考え、今井は山中にいままで通り静岡の病院での治療をすすめるのだが、「どうせ死ぬんだったら生まれ育った信州の山を見ながら楽に死にたい」それが余命を宣告された山中の最期の願いだった…。
村橋明郎